キミが隣りにいる奇跡

       〜かぐわしきは 君の… 8

     8



立川市のとある町内のご近所にある“ハッスル商店街”は、
今時のハイカラなイベントへの対応が即妙なのが売りだけど、
勿論のこと、ごく一般的な歳時記でもある、
師走恒例、年末の大売り出しだって予定しておいで。
この時期に要りような
冬物や年越しのあれこれがお値頃だったりするバーゲンは勿論のこと、
お買い上げに応じて参加回数もUPする、
全店協賛の“豪華商品が当たるよ 年忘れ福引大会!”も企画されており。
福引といや、
夏の大売り出しでブッダ様が Jr.を引き当てたり、
修善寺旅行を…まあいやあのその。(苦笑)
今のところはそっちでのご縁しかなかったけれど、

 「冬のは、お米券とかおもちとか
  お歳暮ギフトセットとかビール1ケースとか、
  賞品に食品が多いから当てたいねぇ。」

主夫らしい希望からワクワクしているブッダと同様、
イエスもまた、

 「大型テレビやファンヒーターも魅力だしvv」

少額の元手で豪華賞品を…とばかり、
地道なお買い物で補助券やレシートを集めておいで。
しかも、

 「クリスマス福引と、年越し大売り出しの福引と、
  同じような賞品を揃えたものが、2度もあるなんて…vv」

クリスマス福引と銘打ったそれは、
実は今週の頭から もう抽選への補助券を出しているほどの前倒し。
クリスマスどころか大売り出し自体も来週からだというに、
それを思うと気の早い話。
また、日を追うことで、
ああもう特等は はたまた一等は出ちゃったかと
早々と残念がられることのないように。
レシートや補助券が繰り越し出来るという、
希望の賞品をこそ狙い撃ち…とする人には嬉しい、
二段構え方式になっており。

 「でも、そうなると却って迷いどころでもありますね。」

というのが、
双方に 二等賞が“お米券5万円分”となっているがため、
それを特に狙っておいでのブッダ様としては、
クリスマス福引でまずはと手持ちの福引券を使ってみるか、
いやいや年末の買い物も済ませることで福引券の枚数を増やし、
年末のほうの福引にのみ、確率を上げて懸けた方がいいものかと、
こちらも随分な前倒し、今から決めかねていらっしゃるご様子で。

 「ですが、皆さんが同じことを考えていたら…。」

これはなかなかに難しいことよと、
浄土の宝珠、叡知の結晶、
それは聡明な如来様。(ってのは どっかでも使いましたが)笑
世紀の難問相手でもあるかのように、
今週のお買い得がお店ごとに紹介されているチラシを前にしてはいるが、
ほとんど眸に入らぬまま、う〜んう〜んと唸っておいでだったりし。

 「じゃあ、いっそ
  クリスマス福引の期限ぎりぎりまで粘ってみたら?」

そうまで悩むほどの福引券を手にすることが見越せるのも、
ブッダが家計を握っているからこそであり。
なので、券に関する使いようの決定権も彼にあるものだ…と、
イエスとしてはそんな風に構えているらしく。

 「期限ぎりぎり?」
 「最終日までお米券が出ていなければその日に使ってみるの。」

そうまで粘ったということは、他の賞品も出尽くしているだろし、
他の人たちも、
じゃあ手持ちの分は 年越しの福引の方へ回そうか…なんて
思うかもしれないでしょう?

 「ライバルも減るんじゃない?」
 「成程ねぇ。」

賞品の中に、ケーキだのパーティーグッズだの、
いかにも洋風のお総菜の鷄の照り焼きだのといった
クリスマス向けのものが多いそちらは、最終締め切りが25日で、
年越しの福引は翌日からの6日のみという短期決戦という仕立て。
枚数を多くして たくさんガラガラを回せば
何かいいものが当たる確率も
分母が増える分 高くなるんじゃあないかと思うのが
いつの世も“人の性(さが)”というものだから、と
そんな道理を言いたいイエスらしいのだが。

 「でもね。
  私の他にもお米券だけを狙っている人は多いと思うんだ。
  だから、最終日まで出なかったなんて状況だったりしたら、
  そういう人ばかりがその日に殺到しちゃうんじゃないのかな。」

 「……え、えっと?」

さすがは堅実でいらっしゃるブッダ様で、
楽観的なイエスが挙げたにしては 結構練られた策であれ、
それでもまだまだ甘いと思うのか、
なかなか乗っかれない慎重派でいらっさる模様。

 「それに…。」

それに、年越しのほうは微妙に日が限られてるだけあって、
そこまで粘る人も少ないと見越されたか、当選本数が少ないし、と。
真剣に挑もうという心意気の現れか、
まだ日のある年越し福引の方、そこまで把握しておいで。

 「特等が大型テレビ、
  一等がファンヒーターと電気カーペットで、各1名ずつ、
  二等がお米券2本というところまでは双方同んなじで。」

三等四等は何でしたっけね、
確か、ゲーム機かビール1箱でしたっけ?と、
あまり関心が向かなんだか、そこはうろ覚えらしかったものの、

 「クリスマス福引だと、
  サラダ油ギフトセットやお茶と海苔の詰め合わせ、
  若しくはクリスマス・パーティーディナーセットが
  五等六等に控えているのに、
  年越しのほうは、いきなり
  ボックスティッシュ5箱パックとコンパクト洗剤1個ですからね。」

必需品ではありますし、本数は増えてるようですが、
それでもこの落差はやはり大きいなぁとですね、と
困ったように、それは悩ましげに眉をひそめてしまわれる。

 “う〜ん、そうまで確実性を求めているのか。”

それは賢い如来様が、その麗しいお顔を曇らせ、
真剣本気で どう段取りを組めば確実に得られるものかと
お米券への道を検討中。
執着というものに慣れのないせいもあるからか、
煩悶し続け、ずんと苦悩なさっておいでのご様子へ、

 “…そうまで魅力的なのか、お米券。”

代替価値があるという理屈は判るが、それでもあのね?
無機物の極みだろう紙片相手に悋気を起こす日が来ようとは。

 “まさか、よもや、思わなかったよなぁ。”

あの免罪符も、相当なフェイントというか、
随分と意表を衝かれたアイテムだったけれど、と。
途轍もないものを引き合いに出し、
妙なところへしみじみなさってしまった、
こちらはこちらで、やっぱり素直なヨシュア様だったりするのである。




     ◇◇


とて、クリスマス商戦は始まったばかりだし、
くどいようだが、大売り出し&抽選会は15日から。
福引の会場すら まだまだ作られてはいなくて、
商工会の事務所前に赤と緑のモールでぐるりと縁を飾った立て看板だけが、
五月人形の鐘馗様のように堂々と立っているばかりだし、
結構派手なそれだとて、さほどには注目されてもない雰囲気であり。

 「まあ、まだ始まって1週間経ってないしね。」

夏のときと同様に、300円のお買い物で補助券が1枚もらえて、
補助券5枚で一回分なので、1500円で一回引ける換算。
大売り出しでの買い物ともなると、
値引きされたものをこそ買い求めるのが目的でもあるから、
補助券をなかなか集められないかもと恐れるなかれ。
クリスマスじゃ年越しじゃとなると、
結構な金額を知らず知らず使ってしまうものだけに、
15日からの本格的な大売り出しが始まったなら、
我先にと引き始める人も出ようし、

 「今年は三等以下の本数が増えてるからねぇ。
  かずのこにイクラやお餅は、
  当たればいいなって買い控える人も多かろうよね。」

ご贔屓の八百屋さんで、
新聞紙に手際よくくるんだ大根と葉つきのカブをはいよと渡してくれつつ、
恰幅のいいおかみさんが楽しそうに言うものだから。
ああそうだ、四等はそれだったと、
今になって思い出したブッダとしては、

 “かずのこはイエスも好きだろうし、それもいいなぁvv”

新型ゲーム機とやらだと、
ソフトをレンタルしたり電気代も嵩むしで、
欲しがっておいでのイエスには悪いが、
当たったところで家計に痛いから微妙に困りものなんだけど。
お正月向けで、ある程度 保存の利く
美味しいものが当たるのは大歓迎vv…な〜んて、
ああまでこだわってた“お米券”から、早くも目移りしておいで。
まま主夫らしい浮気心だし、このくらいなら許容範囲なのでしょう、うん♪

 ※ところで、
  ベジタリアンながら、鷄の玉子はOKらしいブッダ様ですが、
  魚卵はNGなんでしょうかねぇ。
  どういう理屈なのかが微妙だなぁ。

ああ、今からワクワクだなぁと、
悩むのもまた楽しからずやなんて気分を堪能しておいでのブッダ様は、
忘れちゃいけない苦行マニアなので、
仏門の衆には禁忌であろう
“執着”にあたるやも知れない煩悶に耽っていたというよりも、
むしろ…単純に戦略を構えるのを楽しんでらしただけなご様子で。

 “だってそんな、
  私が本気の全力なんかで
  欲しいものが当たれ当たれと願ったりしたならば。”

あ…そうでした。
以前にも仰有ってましたね、そういえば。
暑中見舞いをカモメールで出したら、
皆へ賞金が当たったものだから、
なんかお金をばらまいたようで後味が悪かったとかどうとか。
運よく当たったら良いなぁ程度
仄かな願いごとレベルの想いならともかくも、
あんまり強く願い過ぎた結果、
神通力が働いて、強引に“当たり”を招いてはそれこそ困りもの。

 “イエスにも誤解をさせたかもですね。”

そうまでの執念で
“是非にもお米券をっ”と切望しているブッダなのかなぁなんて。
それは素直な彼のことだから、
見ていたそのまんまで受け止めちゃったかもしれませんねと。
苦笑というには随分と甘い笑みにて、
その口許をほころばせてしまった釈迦牟尼様であり。
これが他の人相手の話であれば、
私がそんな物欲に凝り固まったりするものですかと、
一蹴するなり、はたまた一笑に付すなり出来たところだが、

 “深読みしたり疑ったりしない、
  子供みたいな素直さが、イエスのらしいところですものねvv”

しょむない悪戯というか、
嘘にも届かぬ茶目っ気のスキルは結構高いですけどね。(笑)
最近になってやっと、含羞みの度合いも落ち着いてのこと、
こちらからもちょっとした惚気を返せるようになり。
そうなると、一瞬キョトンとしてから、
ああ、えっとあのその…//////なんて じわじわと赤くなったりする、
イエスの純情なところがまた、格別に可愛らしいなぁなんて

 “やっと何とか、追いつけたかなってところだものねぇ。/////////”

天界にいたころは、
いやいや、今のこの地上バカンスを始めたばかりのころだって、
ともすりゃ天使たちよりも純心なんじゃなかろかと思えたほどに、
そりゃあ無邪気で、素直すぎて危なっかしくて。
気がつけば何につけ案じてばかりいた相手でもあったというのにね。
発覚すればそのまま破綻したかもしれなかったからだとはいえ、
あの隠し事が苦手なイエスが、
これだけは何百年もの永い間を隠し果せていた恋心。

 “逆に言えば、
  そんな肝があったからこそ、
  他が全部お留守になっていたのかもしれないね。”

誰をもどんな罪でも許す彼ではあるものの、
それでもあまりに無防備がすぎると、いつも思えてやまなかった。
屈託がなくて無邪気で素直で。
でも、だからこそ嘘や欺瞞や
それらによる手痛い目にもさんざん遭って来ただろうに、
その本質は変わらぬままで。

 “…いやいや、それはそれこそイエスの本質だもの。”

彼が自分への恋情を隠すあまりに隙だらけだっただなんて、
自惚れるにもほどがあると、自身の心持ちを改めるブッダ様であり。
年齢やキャリア的に どっちが上とか下とか言うのじゃあないが、
それでも天界にいたころや 地上に降りて来たばかりのころは
それこそ こちらが引っ張ってた相性だったのに。
ブッダの側への恋情が生まれ、それが発覚した途端、
生活習慣はともかく、何かと大きく逆転していた訳で。

 “でも……。///////”

気づいたのが遅かったのだもの、不慣れな身なのはしょうがない。
いつぞやイエスも言ってたように
恋心というのは 生まれたそのたび初心者になるものだそうだし、
それに…、

 “イエスにリードを取ってもらうのは、
  とっても頼もしいというか嬉しいというか。/////”

好きになったのが彼で良かったぁ///////なぞと、
感に入っておいでだったりするのだから世話はない。
そりゃあ、時に不安も押し寄せる恋情なのへ、
好きになったお相手ご当人から
“大丈夫だよ、私に任せて”なんて支えられてるなんて
確かにこれ以上の幸せはないけれど。
とんでもない人を好きになりでもせぬ限り、
愛した人がリードしてくれるのは順当なのだから、
そこを良かったと感動するのは何だか微妙。
さすがに“神の子”相手なのだから、滅多なことはないとは思うけれど、
母性が強すぎるブッダ様は、
同時に“ダメンズ属性”もお強いので、(おいおい)苦笑
あんまり盲目にならないようにねと、
弁財天様辺りが聞いてたら注意したかも知れないぞ?
(ああでも、ロックな人だからそれはないかな?)笑

 「…あれ? イエス?」

八百屋さんの前で
女将さんとのお喋りになってた そのついで、
妙な妄想にとろけかかっていたものの、
ふと見回すとイエスの姿が辺りに見当たらぬ。
彼にもお馴染みの商店街なので、
何か用があってどこかのお店へ入ってったのかな。
一頃ほど“何も言わずに…”という勝手は
あまりやらかさぬようになった彼だが、
今日はこっちがぼんやりしていたから
声をかけられたのへ気づかなかった私だったのだろか。
それこそ幼子じゃあないのだし、お互いにスマホも携帯している、
見失ったくらいで、
そのまま今生のお別れ…にまではなりはせぬと判っちゃいるが、

 “どこ行っちゃったのかなぁ?”

普段だったら視野の中からそうそう離れない彼なのにと、
今日のメニューも決まったし、もう帰るのになぁと相方さんを探し始める。
ではという会釈を残し、
そのまま“イエス〜、帰るよ〜?”との声を発したブッダを見送り、

 「ホ〜ント、仲がいいわねぇvv」

しっかりして見えても異郷の町はまだ心細いのかなぁと言いたげな
微笑ましいねぇという感慨をこぼす女将さんへ、

 「というか、
  イエスさんがまだ心許ないから
  心配でならないんじゃあないですかね。」

お揃いのデニムの前掛けをした
人懐っこい笑顔のバイトの女の子が、楽しそうに言い足したのへ、
ああそうかも知れないねぇと、
意を通じさせてのクススと吹き出しておいで。
かように、商店街の皆様からも愛されておいでの最聖コンビ。
その相方はどこへ消えたかというと、

 「…おや。」

商店街大通りに当たる真ん中の一本道から路地へ折れたところ、
少し引っ込む格好の場所にある、
DVDレンタルのお店の中に、見慣れた後ろ姿を発見し、

 “あれ? 何か借りてたっけ?”

お二人とも、
海外ドラマだけじゃなく、映画も大好きで。
そんな関係からこちらのお店もご贔屓ではあるが、
何せシェア仲間だ、何か借りれば一緒に観ることとなるだけに、
昨日や今日というどこかで何か観た覚えもないしなぁと、
怪訝そうに小首を傾げながら、
表から最中が見通せるガラス張りのお店へとブッダが近づけば、

 「…あ、ブッダっ、良いところに来たねっ!」

返却や貸出へと店員さんが応対してくれるカウンター前にいた
赤いダウン姿のイエスもまた、
店内へ入って来たブッダにいち早く気がついて。
こっち来て来て早くと、
そりゃあ急くような“おいでおいで”で手招いて見せたので。

 「???」

ますますのこと、ブッダのお顔が
キョトンとして 狐につままれたようになる。
何か借りたいのを、決めかねてでもいるものだろか。
余程に外してない限り、怒りまではしないというになぁと、
先程ふんわりと思っていたことの余韻もあってか、

  なんてまあ可愛らしいことか、なんて

ややあって 苦笑が浮かびかかった
そんなブッダの手をがっしと取ったヨシュア様、

 「ここから一枚、クジ引いてよ、ブッダっ。」
 「はい?」

ちょっぴり骨張った、見慣れた大きな手が、
ブッダの手を手首ごと、いやいや腕ごとという勢いで引っ掴み、
そおれと導いたのが、
カウンターの上、真っ赤なボール紙の箱の上へ大きく開いてた口へ。

 「え?え? 引くって何を?」

これってどういう肝試しなの?という問いかけと、
同じような響きでブッダ様が訊いたのも無理はなかろうほどに、
前説明が一切なかった無茶ぶりなのが相変わらず。
それへ、イエスがやっと一時停止をし、応じての曰く。

 「くじ引きだよ、くじ引きvv」

都心の大きな店なら風変わりな客もそうそう珍しくはなかろうが、
ちょっぴり長閑な立川の下町の小さなお店、
いい大人の二人、しかも体格の良いのがごちゃごちゃを始めても、
特に驚きも慌てもしないでにっこりと微笑っておいでの、
お店のお姉さんも若いに似ず大したもので。

 「ウィンターキャンペーンのくじ引きなんです。」
 「…キャンペーン。」

言われて見直せば、
イエスが かつて手を突っ込むのを怖がったという
“真実の口”には…到底 似ても似つかぬ
ドッヂボール大のそのボール箱にも。
○○書店&レンタルの◆◆協賛のという冠つきで、
ウィンターキャンペーンという角ゴシック体の大文字が刷られており、

 「さっき、PCのゲームソフトを返却したんだけど、
  駅前の○○書店のレシートと足したら、1回引けるんだってっ。」

 「おや良かったじゃないvv …っていうか、それを何で私が?」

どうやら商店街のとは別連動の代物らしく、
イエスの個人的なお買い物で発生した権利らしいのに、
何でまた私に振るの?と、ブッダとしてはそこが腑に落ちないらしい。
そんな彼の言いようへ、
おでこ同士がくっつくほど、ひたりとお顔を近づけて来たイエスが、
その距離でやっと聞こえるほどの小声で、
こそこそこそと鋭く囁いての言うには、

 「だから〜。どうしても当たってほしい賞品があるんだけど、
  そんな気持ちで私が引くと、妙な奇跡とか起きかねないでしょう?」

 「あ、そっか。」

さすがは彼もまた最聖であり、
欲しいものがあると はっきり言っちゃうほど、
ブッダ以上に その辺はあからさまに素直な割に、
聖なる力によるズルはいけないという点だけは
どうあっても外せないと心掛けておいでならしく。
何とも特別な、彼らならではの事情から、
お連れさんが来るのを待ってたらしいイエスだったことなぞ、
ちいとも通じてはなかっただろに、

 「どちらがお引きか、お決まりですか?」

ある意味、あくまでもマイペースな店員のお姉さんもおさすがで。
二人 お顔を見合わせ合ってから、じゃあ私がと、
螺髪という変わった髪形の男性の方が手を延べれば、
どうぞと、抽選箱の下のほうを
両手で持って差し出してくださるご丁寧さ。
中には、少し丈夫な紙を三角に折って張り合わせた、
いわゆる“三角くじ”がたくさん入っており、

 “何を当てたいイエスなんだろ。”

そういえばそこを訊いてなかったなぁ、
でも、訊いてしまっていたら私も奇跡を起こしちゃうかもだし、
このままどれでも良いから取ればいいんだよねと。
それこそ妙な言い方の極み、いわゆる“神頼み”に任せてのこと、
適当なのを摘まんで取り出せば、

 「はい、そちらですね。」

お姉さんがそちらも白い手を はいと差し延べる。
ああ開けてもらうんだと素直に渡すと、
優しい笑顔で受け取ったそのまま、
折ってあるところじゃあない、貼り合わさった辺を2カ所、
工作バサミでじょきりじょきりと切り離し。
中が透けないようにと濃い色のくじを、
ぺらんと開いて確かめて、

 「おめでとうございます、二等当選でございます。」

おお当たったのか、でも二等?と。
相変わらず、コトの流れが半分ほど、まだまだ見えてはいない如来様。
カウンターの手前、台の下にあたる面に張られたポスターに
概要が記されているとやっと気づいて、ざっと読み始めたほど、
現状にワンテンポ遅れておいでのブッダをよそに、

 「アイボリーになさいますか? それともアイビーになさいますか?」

この場で賞品を渡してもらえるらしく、
そうと訊くお姉さんなのへ、

 「うっと、どっちがいぃい? ブッダ。」
 「え?」

何でそこまで私に訊くのかなと、
ブッダとしてはまたまた腑に落ちない展開で。
くじへの不正は良くないと、ブッダに代わってと頼んだものの、
当たったものはイエスのものだろにと、やや他人事でいたのにね。
そんな気がしたからか、何とも応じぬ彼なので、

 「アイボリーだと汚れやすいからアイビーのほうにしようね。」
 「う、うん。」

ふふふとやたらに嬉しそうなイエスだったけれど、
でもねあのね、くじ引きのポスターには、

 一等、ミディアムサイズのモバイルタブレット
 二等、ビクーニャのストールマフラー

と記されていて。

 “…イエス?”

知らずに引いちゃったから二等だったのかなぁ。
確かにズルはしてないけれど、
イエスが欲しかったのって、もしかして…






シックな深緑の包装紙に包まれていた薄い化粧箱の中には、
それは薄手で、でも触れただけで既に暖かい、
上質のウールだろう大判のストールが収められており。

 「ビクーニャって?」
 「アルパカの一種なんだって。」

あのままアパートへ帰って来て、
買い物を冷蔵庫や戸棚へしまってから、さて。
レンタル店でいただいた賞品を取り出してみれば、
意外にも そうまで上品で上等な代物であり。

 「お店にいた
  キャンペーン担当のお姉さんにも説明してもらったんだけど、
  ペルーの特別なアルパカで、
  2年に一回しか毛を刈ってはいかんって決めて
  国が保護してるほど数も減ってて。」

たいそう細い毛並みなので、
それで織った毛織物はずんと薄く軽やかなのに、
暖かさは抜群だと来て、
密猟者に乱獲されて激減したため、
そんな処置が取られているのだとか。
コタツの上で箱を開いたのはブッダであり、
というのも、イエスが開けて開けてと勧めたから。
しかもその上、

 「ねえ、巻いてみてよ。」
 「いやあの、イエス…。」

これって君が当てたんでしょうよと、
先程のおねいさんに負けないほど
見ただけで柔らかそうなのが伝わる白い手で
箱から持ち上げたストールを、
差し向かいに座っておいでのイエスへと差し出す彼だったが、

 「それは君のだよ、ブッダ。」
 「はい?」

帰って来る道中でも、アパートに着いてからも
鼻歌がこぼれるほど上機嫌だったヨシュア様。
どうやら、そんな特別な品が、
運良く当たったことよりも、
ブッダへ渡せることこそが嬉しかったイエスであるらしく。
包装紙をやや不器用そうに畳みつつ、
そうすることで…照れから視線を降ろして外したのを誤魔化して。

 「それくらい大きくて、なのに軽いなら、
  福耳ごと巻いてお顔を半分埋もれさせても
  肩は凝らないだろうし暖かいだろし。」

 「あ……。///////」

普段のイエスなら、
間違いなくタブレットの方を欲しがっただろうにね。
賞品を見て“あ…vv”と気がついたそのまま、
あっさり見切ってしまえるなんて。
ささやかなことなれど、だからこそ
当たり前なことのように優先してもらえたなんてと、
ほこりと嬉しかった如来様。

“ああ、私も
 ゲーム機なんてあたってもしょうがないなんて
 思っちゃあいけませんよね。”

羽のように軽いのに、それはほんわりと温かい、
それは優しいプレゼントをはやくも贈られて、
胸底も暖めてもらったブッダ様だったようでございます。

 私もクリスマスには頑張って贈り物をするからね?

 あ、私だって頑張るもの。
 それは別口なんだからね? いぃい?

そうそう、まだまだ本番は先ですものね。
どんなに寒くなろうと関係ないと、
お顔を見合わせあうと、ふふーとまろやかに笑い合い、
向かい合ってたそのついで、
カナリアみたいに頬に額にと唇くっつけ、
幸いを確かめ合ってしまうお二人でございますvv

「あ、それと、洗濯機で洗っちゃあいけないからね。」
「…あ、う、うん。」

イエス様、それはもしかすると、
世に言う“釈迦に説法”というやつなのでは?






    お題 番外 “臆面もなく”





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  *当然のように…で
   ちょっと書き足りなかったというか、
   ここまで繋ぎたかったので、頑張ってみました。
   イエス様にすりゃ、
   ゲーム機やミニパッドPCなんて賞品も
   魅力的じゃありましょうが、
   それよりも…と、目をつけたんでしょうねvv


ご感想はこちらへvv めーるふぉーむvv

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